て逃げて行く子供の方を見守って居る彼の顔は悲しそうに又厳かであった。
私は心配であった。
けれ共今まで気が付かずに居た叔父の髪の長い事を知ると非常に好奇心を動かされて、高い処にある彼の頭を眺めた。
其処には実に奇麗な――ああちゃんのと同んなじ様だと思った程の光った髪の房が肩の上まで下って居た。
私が目を大きくした位それは立派だった。
素直で厚くて重そうでお飾りの様であった。
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「何て好んだろう。
まあほんとに奇麗にそろって光って居るんだろう。
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左様思うと私には、男の子が罵った理由がまるで分らなくなった。
何故男の人は髪を長くしては可笑しいのか。どうしてチャンコロになるのか。
私は自分の大切な者を悪く云われた口惜しさが胸一杯になった。
けれ共彼はだまって私の手を引いて歩き出した。
私はどうかして泣くまいとして口を引き歪めたり、しかめ顔をして堪え様とした。
私の周囲には泣き顔を見られたくない沢山のお友達が居たからである。
が、とうとう堪えられなくなって一粒涙がこぼれ出すともう遠慮も何もなくなって私は手放しの啜り泣きを始めた。
手を握って居ながら叔父はまるで別な事を考えて居るらしかった。
彼は一層陰気な顔になってうつむきながら私を慰め様ともすかそうともしずに歩いた。
泣きじゃくる私と、考え沈む彼とはお寺の多い通りを多勢の子供達の驚きの的となりながらのろのろ、のろのろと、動いて行ったのである。
泣きながら私はぼんやりと大変お天気の温かな事を感じて居た。
外には雨が降って居た。
そして昼であった。
只それ丈が分って居る丈でどうした訳でその様な時に叔父が床に就いて居たのかまるで分らないが、私はその傍にゴロンところがって足をバタバタ動かしながら種々な事を話して居た。
――大変にその室が暗かったから多分雨でも降って居たのだろう。
私は種々喋った末何の気なしに甘えた口調で友達の一人が自分を酷めて困る事を告げ、或る慰めと同意をかすかに期待しながら、
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「ほんとうにいやな人なのよ、
私憎らしくって仕様がないわ。
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と云うと、思いがけず私の延して居た腕に飛び上る程の痛みを感じた。
ハット思った心が鎮まると漸う私は彼に抓られたのだと云う事が分った。
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