りした茶色の幹を輝かして立って居る一群の木々の間からは真紅の小さい葉どもがチラチラして、その奥の奥からはチチチチチ、チチチチチと云う小鳥の声があっちにゆったり落着いて居る山の方まで響いて行く。
 私は歓びと驚きで胸が張ち切れそうになった。
 太陽のよっぽど近くまで来たのではあるまいかと思った程四辺は明るく金茶色に輝いて、天は私が爪立てたら触れそうに感じられた。
 静かに分けて行くと、黒い丸い小さい実をつけたり、御飯粒の様な凋んだ花を付けた高い草が私の胸の所で左右に分れて、ブーンと風音をたてながら小虫が飛び出したりした。
 私はうれしさに我を忘れて一気に向うまで馳け抜けて見ると、丁度カステラの切り目そっくりな※[#「涯のつくり」、第3水準1−14−82]《がけ》が目の前に切ったって居る。
 私には見当もつかない程低い低い下の方から先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐの足元まで這い上って居るその※[#「涯のつくり」、第3水準1−14−82]の面は鋭い武器で切られた様に滑らかそうで、赤土の堅い層の面をポカポカなそれより黄色い粉の様な泥が被うて居た。
 そこからは弟達の玩具の通りな汽車の線路や、家や、私のお噺の国に住わせたい様な人が小さくチョコチョコと働いて居るのが見られた。
 私があっけに取られて居る後から追い付いた叔父は私と並んでその※[#「涯のつくり」、第3水準1−14−82]のとっぽ先に腰をかけた。
 けれ共私は、自分の足の先が宙に浮いてブラブラして居るのに気がつくと、地面ごとあの下の方までころがって行きそうな不安や、若し此の草履を落したら誰があすこから拾って来て呉れるかしらと思うと、気味が悪くなって、ジリジリと後へ下って傍の草地へ座ってしまった。
 叔父はすぐそばに見える山について種々の事を話してくれた。
 自分がまだ子供だった時夜足駄を履いて登った事があって、天狗が居ると云う事だと聞くと私の驚きは頂上になった。
 赤面の棒鼻をした白髪の天狗が赤い着物を着羽根の団扇を持って何処の木の上に止まって居るだろうと、只なだらかに浮いて見える山の姿に目を凝した。
 勿論偉い天狗様は見え様筈もなかったけれ共、叔父は天狗の事から又神様の事を話し出した。彼は非常に興奮した口調で殆ど叱責する様に私には分らない種々の事を説き聞かせた。
 そして終には、教会の説教台に立って、幾百かの聴
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