肌と、つよい対照で目を射た。人気ない。陰気な程深い張出しつきの教師館を修繕中で、朽ちた床板がめくられ、湿っぽい土の匂がする。テニス・コートらしい空地で、緑の草を女がむしっている。私はやっと、御堂内では一切穿物を許さないということだけを知り得、荒れた南欧風の小径を再び下った。御堂の内部は比較的狭く、何といおうか、憂鬱と、素朴な宗教的情熱とでもいうようなものに充ちている。正面に祭壇、右手の迫持の下に、聖母まりあの像があるのだが、ゴシック風な迫持の曲線をそのまま利用した天蓋の内側は、ほんのり黄がかった優しい空色に彩られている。そこに、金の星が鏤《ちりば》めてある。星は、嬰児が始めて眼を瞠って認めた星のように大きい。つつましい冠をいただいた「いと貞操なる御母」まりあは、その稚い美感の制作である天蓋に護られ、献納の蝋燭の焔に少しばかりすすけ給うた卵形の御顔を穏かに傾け佇んで在られる。祭壇の後のステインド・グラスを透す暗紅紫色の光線はここまで及ばない。薄暗い御像の前の硝子壜に、目醒めるようなカリフォルニヤ・ポピーの一束が捧げてあるのが、いじらしい。隅に、紅金巾の帷を垂れた懺悔台がある。私共が御堂内
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