とであろうか。
[#ここで字下げ終わり]

    書簡(二三)

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
註。面に黒ラシャを張って、ガラガラとフォールディングになった開きのついたデスクの上に、母は円ボヤの明るいラムプをつけた。その下で、雁皮紙を横綴にしたものへ、真書き筆で、こまごまと父への手紙をかく。雁皮紙は何枚も厚く重ねてこより[#「こより」に傍点]でとじられた。六歳である私は、そのデスクにやっと顎をのせるほどの背たけに成長している。母は、おかっぱの私の右手に筆を持たせ、我手をもち添えオトウサマ、ハヤクカエッテチョウダイ、ユリコと書かせるのであった。或夏の夜特別な燈火の下で母と子とがそうやっていたら、突然、桑田さんの方で泥棒! 泥棒! と叫ぶ声がして、バリバリ竹垣を踏破る音が起った。母は、さっと廻転椅子を立ち上るなり、物をも云わず庭に向ってまだ開け放されていた椽側の雨戸をしめた。宵の八時頃であったろうか。
[#ここで字下げ終わり]

    書簡(二四)

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
註。キャップ、アンド、ガウンの大学生が街燈のガス燈によじのぼって灯屋をあけ
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