をのぞいて、常に「深切や恋愛に憧れ」つつ「これらのものを恐れる」気持、「人は恋をすると容易に奴隷になってしまう」「私は奴隷になりたくない。自由は恋愛よりも崇高だ」。「少くとも今日においてはそうだ」という彼女の所謂《いわゆる》理知の命令にしたがった結果なのである。
 情熱的な、自然児風な魅力あるアグネスは場合によっては極めて単純に恋愛の感覚に運ばれてしまう。「度々単にある境地に押し流される」すると、程なく「理性と猛烈に闘っていて」彼女の打ちひしがれた心が「再び反抗して立ち上った。」
 そうして、仕事にかけては機敏で実際的で、明敏でさえあるアグネスが「再び[#「再び」に傍点]反抗して立ち上って」結婚というものを否定しはじめると、これは又何と痴鈍に頑固に、非現実的に偏執的になるのであろう! この点では殆どすべての読者をおどろかすものがある。アグネスは、結婚の腐敗から女を救い、よりましな結婚を存在させる社会をつくるためには、一組一組ずつの結婚生活が、今日の現実の中で、最前をつくしてよりましなものにする努力に於て営まれてゆかなければならないという事実を、全く考えて見ようとも思っていない。性的牽引
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