たばかりではない。若い女の服装が夜目に際立って派手であった。薄紫に白で流行の雲形ぼかし模様に染た縮緬の単衣をぞろりと着、紅がちの更紗の帯を大きく背中一杯に結んでいる。長い袂から桃色縮緬の袖が見えた。まわりを房々だした束髪で、真紅な表のフェルト草履を踏んで行くのだが――それだけで充分さらりと浴衣がけの人中では目立つのに、彼女は、まるで妙な歩きつきをしていた。そんなけばけばしいなりをしながら、片手で左わきの膝の上で着物を抓み上げ持ち上った裾と白足袋のくくれの間から一二寸も足を出したまま悠《ゆっ》くり歩いて行く。左右を眺めるでもなく歩いて行く。――私は、異常な気持がした。その若い女を見て、何か感情に訴えられるもののあるのは私ばかりでないと見え、縁台を出して涼んでいる者も、わざわざ頭を廻して、彼女の後姿を見送った。然し、言葉に出して批評する者もない。皆がただ或る感をもって目送する。若い女は、そういう人目に一向頓着せず、やはり着物のわきを抓み上げたなり、赤い帯、赤い草履でゆるゆる行く。女は半町ほど行って、面白くもない編物細工を陳列した一つの飾窓の前に止まった。機械的に、下膨れな顔をキッと仰向け、
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