想像力
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)やに[#「やに」に傍点]なっちゃうね
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 派出婦さんが、だんだん顔をあげて私を見て、笑顔になってものを云うようになった。そして、こんなことを話した。
「あたし、喧嘩する家はつくづく、やに[#「やに」に傍点]なっちゃうね」
 夫婦喧嘩されると、どっちにどう云っていいのか分らないから困る。
「旦那さんと奥さんがガミガミ馬鹿にしてんのはいいけんど、奥さんが叱られると、きっとこっちへ当って来るから、ほんとにやに[#「やに」に傍点]なっちゃう」
 旦那さんが細君にやられても派出婦なんかに当りちらさないが、細君はきっと当って来るものだそうだ。
「でも、御新婚なんかのところだと、あなたやきもちがやけない?」
「よくそう云われるけんど、あたしちっともそういう気持にならないわ。自分たちの仲だけのこんでこっちへ当って来ないもんね」
 成程と、大いに笑って感服した。
 この二十二歳の女は群馬の農村の娘である。この話をきいていると、熟した巴旦杏のような頬の色をした若い女が全く想像
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