の上でも、本当に友達の有難みを知ることの出来るのは、これからであろうと思っている。その人々とのつき合いが始ってからでも、もう私はかなり深くその感謝を感じていることもある。そんなことを一々具体的に、友の名を並べ面白く書いて欲しいのが、多分編輯の方の目的であったのだろうけれども、私の友情はやっとおそまきの、私にとっては大事な芽を地面の奥でふき出したばかりといってよい時期にある。私は、今迄待ち望んでいたものが到頭見出せるかというときなのだから、それを自然に育てようと真面目に考えている。自ら地面を破って現れる迄、私は滋養にとんだ沈黙で二葉を包んでおこう。
 異性の友情も、私は微妙な陰翳のあるまま朗らかに肯定し暢々《のびのび》保って行きたい。けれども、むずかしいのは私の根性が思う通り垢抜けてくれないことだ。
[#地付き]〔一九二四年六月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「女性改造」

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