間休息、一日に一つの玄米の握り飯、で働せられて居る由。いやでもそれをしなければ一つの握り飯も貰えない。
地方から衛生課長か何かが在郷軍人か何かをつれて来たそうだがあまり恐ろしい有様におぞげをふるって手を出さず戻ってしまい人夫も金はいくらやると云ってもいやがってしない。ために巡査がしなければならない。
○焼け死んだ人のあるところは、往来を歩いただけでも匂いでわかる。変に髪のこげたような匂いとその、ローストビーフのようなところ等。そして、みな黒こげで、子供位の体しかなくもがいた形のままで居る。只足の裏だけやけないので気味がわるい。
○橋ぎわに追い込まれ、舟につかまろうとしても舟はやけて流れるのでたまらず、溺れ死ぬ、或は、他に逃げ場を失って持ち出した荷物に火がつき、そのまま死ぬ、被服廠の多数の死人も、四方火にとりかこまれた為、空気中に巨大な旋風が起り、火をまきあげたところへ、さっと荷物におちるので、むしやきになった。その旋風のつよさは、半蔵門に基さんが居たとき、三尺に五尺ほどのトタン板がヒラヒラと舞う。
三日の晩松坂屋がやけ始め 四日の朝六時に不忍池の彼方側ですっかり火がしずまった。
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