で「そうかっ」と云って又よたこら歩き出した。私はお可笑をこらえて「じいや田舎にはそんなに大きい足袋をはく人があるの」ときくと「いんえ、そうじゃあありませんが足人なみはずれて大きいんで田舎でもあつらえでなくっちゃあないから四十五銭はきっととられますわい」と云って肩をゆすって笑う。「田舎でもねー」と流石大足の私も十二文ノコウ高には少々驚かされる。二三町行くと又足袋屋があったらこんどのは今の家よりは構も店さきが大きく、三四人の番当や丁稚が火鉢をかかえて円くすわって一番年かさらしい一人が新聞のつづき物を節をつけて読んできかせて居たが「今晩」と云うどら声がいきなりひびいたので読のをやめて一度にふりかえったがじいやがあんまり変な形をして居るので眼を見合してニヤニヤして居る。じいやは一向そんな事にはとんじゃくなく「十二文ノコウ高はありませんかねー」と又ここでもくりかえした。「何をあげましょう」と云って出て来た十四許になる小僧は大きく目を見はって「エ、十二文ノ――コウ高ですって、十文のこう高のまちがいじゃあありませんか」と云って火鉢の方をふりかえってうす笑いをする。じいやはニヤリともしないで「なんぼも
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