大きい足袋
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)気になって望め[#「望め」に「ママ」の注記]て居る。
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 私とじいやとは買物に家を出た。寒い風が電線をぴゅうぴゅうと云わせて居る。厚い肩掛に頸をうずめてむく鳥のような形をしてかわいた道をまっすぐにどこまでも歩いて行く。〔九字分消去〕ずつ買った。又もと来た道を又もどると一軒の足袋屋の前に来るとじいやは思い出したように「そうそうおれの足袋が無かったわい」と云ってのれんをくぐると眼のくちゃくちゃした六十許のお婆さんは丸くなってボートレースの稽古をしながら店ばんをして居たが重い大きい足音におどろかされてヒョット首をもちあげてトロンとした眼をこすりながら「何をあげますか」とねむたい声できく。「十二文こうだかを一足くれて下さい」これも又ねむったそうな声である。「エ、十二文ノコウダカですか、十文のコウダカならありますがねー十二文ノコウ高はお気の毒ですね」始めて目のさめたようにはっきりした声で云った。きっとあんまり大きいので驚いたんだろう。じいやはやっぱりねむそうな声
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