ざいますって、そういう声もしている。休会あけが十日のびたというばかりでない興味と期待とが、米内内閣の議会にかけられているというところもあるのだろう。

 正面、幕のおろされた「玉座」の下の右と左とについている時計が秒から秒を運んで一時に近づくと、守衛が、一きわ声を張って注意を与えた。間もなく開会となりますが、その前に傍聴券をお出しになってもう一度よく裏に書いてある規則をお読み下さい。意見を表示する拍手を一切してはいけないということや、取締り上必要と認めたときには退場させるということなどが、細かい字で印刷されているのである。ほかにすることもないから皆がすなおに出してよみかえした。
 やがて一時半となり、今にも、と待つが、二時になっても目の下の議席は空っぽのままである。地下道を入ったときから一列におかれて傍目もふらず席まで運ばれて来たような傍聴人席にも、どこやら、だれたざわめきが漲って来た。しきりに手洗いに立つひとが出来た。それは婦人席にもあって、計らぬ小競合を生じた。というのは、遂に二時も過ぎて倦怠が傍聴席に満ちて来たとき、開会はもう三十分ほどおくれる見込みであるということがやっと通告さ
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