ない代り、知っていることを隠す術を知りません。尋ねて見たら、徴の通りを云いました。大地の神が百年の眠りからさめて身じろぎをしようとしているのです。
ミーダ 本当か?
使者二 嘘は注進になりません。
ヴィンダー 間違いじゃあ無かろうな。
使者一 私の眼や耳は、まだ役に立つ積りです。
ヴィンダー よい。行け! 褒美は仕事がすんでからだ。――(ミーダに向い)どうだな?
ミーダ ふむ。――騒ぐほどのことではないが万更でもない。久しぶりに俺の鞭も命を感じて鎌首を擡げるようだ。どれ、どれ。(にじり出した、宮の端から下界を瞰下《みおろ》す)一寸下を覗かせろ。愚鈍な人間共が、何も知らずに泰平がっている有様を、もう一息の寿命だ。見納めに見てやろう。
ヴィンダー 俺の大三叉も、そろりそろりと鳴り始めたぞ。この掌に伝わる頼もしい震動はどうだ。(下を瞰下し)ふむ。感じの鋭い空気奴、もう南風神に告げたと見える、雲が乱れる。熱気が立ち昇る。
ミーダ(下を覗きつつ、段々亢奮し奇怪な様子で手に握った鞭を振り始める)ほうれ!(間)よしよし。この動物の血で塗りかためた、貴様等同族の髪毛の鞭が一ふり毎に億の呪いをふり出すか、兆の狂暴を吐出すか後で判ろう。呪いの鬼子、気違い力の私生児、入れ! 入れ!(ヴィンダーブラの袖を引張り)見てくれ、俺も老いまい? 粉のように飛んで、光のように、人間共にからみつく、あの――
ヴィンダー 仕事は分担だ。騒ぐな。
[#ここから4字下げ]
ところへ、カラ、駆けて来る。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
カラ ああ、貴方がた。――その様子では、私の虫の知らせが当ったかしら。
ミーダ 愉快なことが起ろうとしている。大地の神が動き出すのだ、人間共の生意気な組立細工の滅びる時が目の前に来た。
カラ 何と云う嬉しさ!――薄穢ない獏奴の食いさしを拾って来たのじゃあなかろうね。私は、もう飢えと渇きで死にそうになっていました。
ヴィンダー 誰が知らせた?
カラ 誰も。(狡く)ただね、私が宮を出ようとすると、天の伝令が一人、影のようにすうっと饗宴の物かげに入りました。間もなく、又その影の影のように、慈悲の女神が、宮を出て消えました。ね? あの女神が左からゆけば、きっと右手に私の場所がある。
ミーダ さすがだ。――然し、此処で展望はきかなくなって来たぞ。
前へ
次へ
全10ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング