打あけ話
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)抽斗《ひきだし》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三七年二月〕
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一 講演
作家で講演好きというたちの人は、どっちかといえば少なかろう。私には苦手である。テーブル・スピーチでも、時と場合とでは相当に閉口する。昔は、大勢のひとの前に自分一人立って物をいうなどということはとても出来なかった。体じゅう熱くなるばかりで、人の顔や声がぼーっと遠のいたようになるのであった。
人前で物をいうようになったきっかけは、奇妙なことにモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]にいた時である。三月の或る記念日に、或るクラブへ行った。皆の腰かけている平土間の座席におられるものと思いこんで行ったら、その横を通りすぎて、計らずも数人の人の並んでいる演台の上へ案内されてしまった。裏のところで案内して来たひとに、私は何も話しに来たのではないんですからと再三たのむのだけれども、きっと日本の女を、皆の見えるところへ出したいと思ったのだろう。私は万策つきた形で、小
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