けれ共、それにつける丁度いい題に困りきって、昨夜《ゆうべ》も今もいやな思いをしつづけて居る。
 書きたいだけ書いて、あとから名をつける癖のある私は、毎度こうした眼に会う。
 いつもいつも物を考える時はきっとする様に、男みたいな額の角《かど》を人指し指と拇指で揉みながら、影の様にガラスの被の中で音も立てずに廻って居る時計だの、その前のテーブルの上に置いてある花の鉢だのを眺め廻す。
 くすんだ様な部屋の中に、ポッツリ独りで居るのが仕舞いには辛くなって来る。
 若い人達が頭にさして居る様な、白い野菊の花だの、クリーム色をみどりでくまどったキャベージに似たしなやかな葉のものや、その他赤いのや紫のや、沢山の花のしげって居る大きな鉢を見て居るうちに、それだけが一つの小さい世界の様に思えて来る。
 淋しいもんで、いろいろ勝手な事を考えて自分で慰むより仕方がない。
 あの草の根方に、小っぽけな人間の形をしたものが一杯居る。
 それが皆、私のふだんから好いて居る西洋の何百年か前の着物を着て歩き廻って居る。
 居る女達は、皆、私が絵で好いて居るゆったりと見事な身の廻りをして、小姓《こしょう》に長いスカート
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