草の根元
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)昨夜《ゆうべ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)この頃|漸々《ようよう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#濁点付き片仮名ア、418−18]
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五時に近い日差しが、ガラス窓にうす黄色くまどろんで居る。
さっきまで、上を向いて見ると、眼の底から涙のにじみ出すほど隈なくはれ渡って、碧い色をして居た空にいつの間にかモヤモヤした煤の様な雲が一杯になってしまって居る。
桜が咲きかけて居るのに、晩秋の様な日光を見て居ると、何となくじめじめした沈んだ気になる。
暖かなので開け放した部屋が急にガランとして見えて、母が居ない家中は、どことなし気が落ちつかない。火がないので、真黒にむさくるしいストーブを見ながら、頬杖をついて、私はもう随分さっきから置いてきぼりにされた様な様子をして居る。
この頃|漸々《ようよう》、学校の休になって、長い間かかって居たものを二三日前に書きあげた
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