曇天の下に目の前の新緑はぼさぼさと見えた。
大工の働いている新築の工事場で 全体の光景がいつもより手近に見え しめりをふくんで/しめっぽく[#「しめりをふくんで」と「しめっぽく」は2列に並ぶ] 新しい木の匂い、おがくず、かんなくずの匂が漂って来た。
○濃い新緑の間からトタン板が水っぽく光った。
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〔欄外に〕
遠いクレーンの頂上に一枚むしろだかズックの袋だかがとりつけられ、更に遠い空には薄あかい光をふくんだ灰色の雲の大きいかたまりがある、
[#ここで字下げ終わり]
○どういうわけか そこの雨戸の一番下の棧のところに特別ひどく泥がたまっていた。
そこを念を入れてふいた。
○そこの手すりは北向なので冬じゅうひどい風や雪にいためつけられていた。何年もそういう風なまま放っておかれた。そこを○子は拭き その上につやふきんをかけ そして 腰をおろして 変っていく隣家の庭の様子を見下すのであった。
雨の日の正午
となりの工事場が全くひっそりして。
雀の声、チュ チュ 雨はやんでいる
正午のサイレンがなったと思うと
珍しく どこかで寺の鐘の音が二つした
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