人生を愛しましょう
宮本百合子
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(例)[#地付き]〔一九四七年六月〕
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現在、私たちは配給に追われたりまきをくすぶらして、食事の仕度をするというような生活に非常な不満をもっています。この不満は五十年、百年前の女性はもっていなかったと思います。これをどうしていったらよいでしょうか。私たちは自分の人生をなんとかしてよくしてゆきたいと思うけれど、それには自分の人生を愛さなくてはならない、愛するには自分から何かしてゆかなくてはならないのです。例えば、皆さんが高い靴下を買いますが、それをただ眺め、なるべく長く保つようにと詩をつくってもだめです。それより最初に一ぺん水につけるとか、ソックスをはくとかすることで、現実にいくらかでもその靴下の寿命がのばせる。その何かすることが大切だと思います。自分の人生にたいして、自分の声を出して行くことです。一番よい生き方は人生を愛し、自分の一生の価値を十分に発揮することなのです。いままでの何々女史と呼ばれるような人は高いところに止っていて、現実の私たちの生活のために何もしてくれない。それは日本の従来の世の中では、有名になったり、地位をきずいたりは偶然に支配されることが多かったからだと思います。これがいままでの多くの女の運命観でありました。運命が偶然に支配されるということで、考えられるのは大衆小説と純文学との相違であります。大衆小説は運命が偶ぜんに支配されるというテーマによって書かれています。それが純文学では、社会的条件のなかで、みずから人生を掴んでゆく姿が描かれる。ここでは女も運命をえらぶ能力を持つのであります。つまり運命の主人公となることができるのです。
自分の心に「こうありたい」と思い、それにより具体的に一歩一歩その自分の道をふんで行くことに私たちの真の生き方があるのだと思います。いま若い女性は結婚と恋愛について、もっとも困難な種々の問題にぶつかっていることと思います。結婚、恋愛により人間としての生活を豊富にしてゆかなくてはならないのですけれど、その障害となる現代のいろいろな世相に対して、合理的な解決法としては組合などが、若い人々の生活に寄与してゆかなくてはならないと思います。各職場の組合の団結の力で具体的に自分たちの生活を組みたて
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