語りかけなかったのは何故だったろう。わたしは、自分について調べてみたい。それは、やっぱり民主的文学者としてのわたしの政治的生きかたの未熟さから来ている。自分の属している政治の組織と、文学の大衆的な組織は、おのずから別個な二つのものである。文学者たる自分が、文学の領域においてはっきり語ってよい限度と、政治団体の内部の条件からうける刺戟によって、湧き立つ精神の処理の方法を学ぶまでに、わたしとして長い訓練が必要だった。
 わたしは、共産主義者である前に進歩的な要素をもつ人間であり、女であるのだから、そして、文学者であるのだから、そのおおね[#「おおね」に傍点]をゆすぶって迫る政治の面での問題を、技術としてきりはなし政治の面での規約にしたがった理論的な方法で処理する躾が身につくまでに、複雑な五年間が必要だった。
 一九五〇年にはいってきょうまでの十ヵ月に、わたしとしては、フェア・プレイとそれ自身の成長発展のために、前衛組織の規約は、どのように尊重されなければならないかという厳粛な事実を学んだ。これは革命の信義の課題でもある。その半面、文学の分野ではどのように語るべきことをまっすぐに語り、検討し
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