の鞠のように傍観されていた時代も、すぎた。
文学における社会性の課題、政治と文学との関係を文学の立場からもっと明らかにしなければならないという必要は、日本の文学に新鮮な血行を与えるために一般的な必要となって来ている。
民主的な立場に立つ文学者は、裾をかかげて水中にふみ入った者であるから、中流に佇んで雲のうつりを見上げていても意味がない。率直に、まだよくわからないいろいろの文学課題と、自身としてもまだ結論に達していない諸実験について話し出して、そういう風に文学を愛するこころにおいて互をうちひらく信頼――共通な発展の基礎を見出すことに、馴れてゆかなければならない時期だと思う。
とくに政治と文学の関係について、民主的な立場をもつ文学者は、過去五年の間に、もっともっとまめな報告者でなければならなかった。けれども、それは必要なだけされなかった。「中野重治議会演説集」一巻がある。しかし、政治と文学との問題が、一般文学の分野で考えられる場合、「中野重治議会演説集」そのものだけでは問題の解答にならなかった。「楽しき雑談」の中野重治、「五勺の酒」の中野重治、そして議会演説集第一巻をもつ中野重治と
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