、婦人にとって全く男と同等になれば、その結果結婚を望む婦人が減って、離婚も増し、家庭というものが崩潰するだろうという見通しを語る人がある。これは実に日本らしい旧い結婚観の裏返った速断である。なる程これ迄の日本の女性は、身のふり方として、一種の生計の道として奴隷的な結婚にも入った。そのままの状態を、一つも発展しないものとして裏返して見れば、悪条件の無くなった社会で、女がそういう奴隷的生存を続ける為の結婚を望まなくなるだろうということは言えるだろう。けれども、私たちはそういう機械的な裏返しで現在の逆を見る誤りに落入ってはいけない。もし一つの社会が、その民主的な発達の過程で、本当に男女の同権を具体化するならば、それは当然人間の性別に対する、今日では想像も出来ない程行届いた理解をともなわずにはいない。男女同権ということは、今日のように男も女も基本的な生存の安定を脅やかされて、自然な性の開花と結実とを楽しめないような状態を意味しているのではない。人間らしい女の総ての心が、こんなに家庭と職業との間に引き裂かれて、二重の負担のもとに憔悴することはあり得ない。才能の可能性を認めて、妻であり母であると共
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