たちの心持は歴史の深刻な意義とともに深く動かされるのであると思います。ヒロイズムの自己陶酔は私たち女を愚劣にします。
 ああいうところで、ああいう生活をしている人々には、みんな家があり、故郷があり生業がある。
 具体的に今日の村の暮しの有様、都会の暮し向きの有様を書いたものは、きっと大きい慰めとなり、人間的な情緒をうるおすことでしょう。特に戦時ニュースで充満した新聞ではよめず、雑誌でも書かない、そういう日々の村や町の商売、家族の生活と感情が、誇張ない文章で数字なども出して書いたものをよむことは前線において切りはなされている現実の他の部分を補うに精神上役立つことが多いだろうと思います。
 人間に真の勇気を与える力、真の慰めとなる力、これは極めて現実に根おろしたものであると思います。
[#地付き]〔一九三七年十一月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「輝ク」
   1937(昭和12)年11月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成フ
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