を見ると、オルガ・ベルホルツという女詩人の書いたものが載っていた。
侵略されたレーニングラード市民の記録である。彼女の写真がのっていた。薄色の髪の毛を簡単な断髪にして、黒っぽい上衣の胸に、彼女の功績を語る勲章がさげられている。衿もとには、昔のソヴェトに決して見られなかった美しいレースの衿がのぞいている。オルガ・ベルホルツの写真の中の顔は、私たちを感動させる表情をたたえている。彼女の目と、口もとと。それは、どんなにさまざまの光景をみているかを、雄弁に語っている目であり、この口もとがひとたび開かれた時、私たちはそこから、もっとも真実な、レーニングラードの市民たちの善戦の記録を聞くに違いないと思える口もとである。彼女の名は十年前には知られなかった。
マルガリータ・アリゲール。この女詩人は「ゾーヤ・コスモデミヤンスカヤ」という作品を書いている。ゾーヤ・コスモデミヤンスカヤはドイツ軍に対して組織されたパルチザンの戦いに参加した十八歳の女性であった。独軍につかまった時、彼女は、パルチザンの秘密を守って、拷問に耐え、一言も云わずに殺された。防衛戦の雄々しい英雄として彼女の物語りは映画にも作られた
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