じない外国人に、こちらのおだやかな気持を通じさせようとするのかもしれません。けれども、ニヤニヤしないでも、真実のこもった親切な表情で十分心もちは通じます。
長い歴史の間、過去の日本人が、上から抑えつけられてばかりいた結果、習慣となった卑屈な愛嬌笑いは、男にも女にも、不用です。
私たちは、そういう日本人であることを、自分に拒絶しなければならないと思います。
ところで、躾の根本を、そういう風なものとして考え直して来たとき、新しい躾は、果して子供たちにだけ必要なものであろうかと、自分に向って質ねたい心持になりました。
私たちは、自分のうちのものは、実によく気をつけて大切に使い、清潔に保ちます。しかし、汽車の中をよごすので有名なのは日本人です。公共建物の洗面所その他を、よくこわし、よくよごしぱなしにすることでも有名です。
これは、わたしたち日本の国民が、すべての公共物を自分たちの計画と資力・労力で建て、それを自分たちで愉快に使う場所とする習慣がなかったからです。つまり、社会万端の施設も、民主の方法で利用されるものでなかったからでしょう。
せまい、個人的なまとまりよさだけを眼目とする躾は、社会全体の幸福を目ざす、大きい着眼点に移されなければなりません。
愛の躾は、社会に対する愛と識見の、よりひろい土台の上に立てられるべきであろうと思います。
[#地付き]〔一九四六年四月〕
底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:NHKラジオ
1946(昭和21)年4月19日放送
「女性の歴史」婦人民主クラブ出版部
1948(昭和23)年4月発行
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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