いる。この必要を認め、女のそういう奮起、たくましさをよみすればこそ、良人の代りに絣のパッチ・ゴム長姿で市場への買い出しから得意まわりまでをする魚屋のおかみさんの生活力が、今日の美談となり得ているのではあるまいか。
 若い女のひとたちに向って、家庭へかえれということがすすめられていたのは遠いことでないが、昨今は職業婦人といわれる女の仕事の範囲も、質的にいつしか、しかし的確に変化しはじめており、家庭へかえれという声もそこでは響きを失っていると見受けられる。職業婦人の働く場面というと、事務員、店員その他いわゆるサービス・インダストリーが従来は主要部分を占めていた。数の上からだけ見れば、今日も明日もそうであるかもしれない。けれども、時局の要求する生産拡充への大努力によって重工業、化学、食料、織縫などには、大量に女の力が吸収されつつある。全国に十万人も熟練工が不足を告げているという事実は、今日の大問題とされているのである。処々の大工場、実務学校などで熟練工の養成、再教育をしている中には、専門学校出の若い婦人を新たに機械工業のための製図師として再教育している実例もある。臨時工として種々の官営、民営
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