のである。
 どの新聞雑誌を見ても、銃後の婦人の力の実質が、この頃は生産拡充への直接間接の参加というところに重点をおかれており、常に欧州大戦当時の欧州婦人の活動が引きあわされている。「今から女工を養成して置くように」という言葉は、すでに去る五月杉山陸相によって提言されていたのである。

 日本の婦人の特徴ということを国際的な文化紹介としてあげ、優雅な日本の姿を欧米に紹介するための写真外交の見本として、きょうも新聞に見えたのは、高島田に立矢の字の麗人が茶の湯の姿である。ところが、そういう画面で日本の女を紹介する習慣をもっている日本が、平時から世界で一位二位を争うほど、婦人労働者によって生産を守られているという事実は、特に昨今何か新たな感動で私たち女の関心をひくことである。
 各国の有業者の人口に対する比率で見ると、婦人有業者の第一位を占めるのはフランスであり、次がドイツ、続いて日本の順である。男の有業者との割合では、男五九・一に対する女三一・九で、婦人の働きての数の多いことでは日本がほとんど世界第一位を占めている。アメリカの婦人の活動性ということは人々の常識にうちこまれているが人口比率で見れば、男六一・三に対して一七・七が女という割合なのである。
 フランスとドイツとの婦人たちが、欧州戦争であのように甚大な家庭の破壊を蒙った後、あらゆる部門に進出して一家の生活と社会の生産とのために働かなければならなくなっていることは、説明を要しない。
 日本では、さらに工場労働者数の男女別で見ると、女子労働者が男の労働者の数を凌駕している。昭和四年においてさえ男工一〇〇に対して女工の数は一一五・七を示し、大部分が繊維工業に分布されている。これは、日本が近代工業国として持っている歴史的な独特性である。故細井和喜蔵氏によって著わされた「女工哀史」はそういう特性をもった日本の若い無抵抗な労働婦人が、ある時代に経なければならなかった生活記録として、世界的な意味をもつ古典なのである。
 今日の生産拡充の要求は、これまでならばオフィス・ガールになったであろう若い婦人たちを生産面での活動に迎えると同時に、もとならば、紡績工場へ年期の前借で売られて行った村の娘たちを、機械工業に吸収して「旬日ならずして熟練工化せんとする」方向にあらわれて来ている。
 ヴィタミンABCでなじみぶかい理研のコンツェルンは
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