のばしたい衝動がある。その半面、経済的な社会生活の現実では、その激しい衝動を順調にみたしてゆく可能が奪われているから、虚無的な刹那的な官能のなかに、生存を確認する、というようなデカダンス文学が生れた。封建的な人間抑圧への反抗ということも、理由とされているが、それは、その第一歩、第一作の書かれた動機のかげにあった一つのぼんやりしたバネであったにすぎない。二作、三作、ましてそれで儲かって書きつづけてゆく作品のモティーヴになってはいない。
わたしたちのきょうの生活をリアリスティックに見つめれば、人民の殆んどすべてが日向と日かげの境で暮している。わるいことといいこととのまだら[#「まだら」に傍点]を身につけて生きざるを得ない状態である。今日の生活としてだれしもやむを得ないことは、その程度のちがいだけであるところまで辷りこむと、本質をかえて社会悪となり、また犯罪的性格をもつようになってしまう。公然のうそ[#「うそ」に傍点]が、わたしたちの生活にある。うそ[#「うそ」に傍点]であることを政府も人民も知っている。だけれどもうそ[#「うそ」に傍点]はわるいこと[#「わるいこと」に傍点]とも知っている
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