とを、すべての日本の婦人が忘れてしまったとでもいうのだろうか。そう簡単には考えられない。某誌が軍部御用の先頭に立っていた時分、良人や息子や兄弟を戦地に送り出したあとのさびしい夜の灯の下であの雑誌を読み、せめてそこから日本軍の勝利を信じるきっかけをみつけ出そうとしていた日本の数十万の婦人たちは、なにも軍部の侵略計画に賛成していたからでもなければ、某誌の軍国調を讚美していたからでもないであろう。あのころ、数十万の婦人は、自分たちのふところから出ていった良人や父や恋人たちが、生きてかえってくることをこそのぞんでいたのだ。生きてかえる可能性が、敗戦のなかにあろうとはおもえなかったから、某誌の勇しぶりに、せめてものこころゆかせをつないだ。大本営発表のほとんどすべてがうそであったとわかった八月十五日からあとしばらくは、さすがの某誌も沈黙した。さっそく話をかえて読者にまみえるには、うそへの協力があまりにあらわだった。
トルーマン再選にからんで、これだけのことをくりかえすことは、意地のわるい詮議だてともおもえるかもしれない。しかし、日本の婦人であるわたしたちの未来の運命についておもいひそめたとき、こ
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