。不幸にもまたここに実父の側との戦いがはじまって、良人の軍は敗れたので、夫人の実父は前例どおり、また夫人を救い出そうとしたのであった。これまでまことに女らしく父の命のままに行動した娘に、今回も父が期待していたことは、彼女の無事な脱出と身の平安とやがて輝くような美貌によって三度目の縁につくこと、そのことで父の利益を守ることであったろう。しかし、その麗しくまた賢い心の夫人の苦悩は、全く異った決心を彼女にさせた。最初の良人の許をも彼女は決して愛を失って去ったのではなかった。二度目の良人に縁あって妻となって、二人の美しい娘たちさえ設けた今、三度そこを去って行手に何が待っているかということは、彼女には十分推察のつくことであった。二人の娘の女としての行末もやはり自分のように他人の意志によってあちらへ動かされ、こちらへ動かされするはかないものであって見れば、後に生き永らえさせることも哀れと思うからというはっきりした遺書をのこして、娘たちをわが手にかけて自刃したのであった。当時の周囲から求められている女らしさとはまるでちがった悽愴な形で、その夫人の高貴で混りけない女の心の女らしさが発揮されなければなら
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