ツィアの経済的、精神的苦悩は、実際にあたって、恋愛や結婚問題解決の根蔕《こんたい》をその時代的な黒い爪でつかんでいるのである。この事実を痛切に自覚しない若者は、恐らく一人もないであろう。
 まず根底をなす社会機構が、もっとすべての人民にとって人間的に生きる可能性を与えるようにならない限り、窮極は社会関係の最も綜合的な表現である恋愛や結婚の問題が、人類的な規範で、各人の幸福にまで発展せられないこともまた大多数の人々に、はっきり理解されていることであると思う。けれども、歴史がそこまで進む過程は実に単純でなく、容易でなく、多くの堅忍が要求される。今のように表面的にはそういう新たな歴史の建設的推進力が見にくくされているような時期には、窮乏化する小市民インテリゲンツィアが、確信をもって新たな次代の階級へ自身を移行させることが困難であると同様に、恋愛や結婚の実際に当っても、本質的な発展は非常にされにくい状態にある。だから、気分的には新たな[#「新たな」に傍点]つよい、晴やかで情趣深い恋愛が求められているとしても、男女の社会関係の実体は、ふるい世界の鎖にからみつかれている有様である。
 基本的な社会
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