心配
宮本百合子
静な町から来た私には駿河台と小川町の通はあんまりにぎやかすぎた。駿河台で電車を下りるとすぐ一つの心配が持ち立った。それは自分のつれて居るじいやが田舎出だからと云う事であった。電車をおりるとすぐ彼は私とあべこべの方へ行ってらした。そうして私に袖を引っぱられて変な顔をして又私の後についた。電車の線路をよこぎる時に彼はあんまりあわてたので職人にぶつかって眼をあいてあるけとどなられて大きい目を一層大きくした。そして「東京の暮を田舎の者に見せてやりたいなあ」と大きな声で一人ごちて道のまんなかに突ったってちょうちんや幕のはなやかにかざってあるのを見まわして居る。人力が来た。リンをチリンチリンとならして走って来た。彼はつんぼだからきこえないのだろう、まだぼんやりと見まわして居る。私は大急で走けつけて彼の手を引っぱって人道の方に引き入れた。私はもうがっかりしてしまった。こんなじいやをつれて来てどうしてよかろうと。
私は尚心配がまして来た。今のようでは一人はなしてあるかせればきっと死んででもしまうだろうと。
それは耳は遠いし足はよく動かないしするし、見とれるとどこでもおかまいな
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