うして置くさ」
と云うのであった。
 この当て役が反対に保夫に振りつけられると、二人の会話は、さよがその役を持った時ほど快活に、熱をもっては進まなかった。
 彼女は良人に注文するだろう。
「きのう吉村さんがいらしった時ね、私、あの方について感じたことがあるのです。何だとお思いになって? 鈴木さんと比較して――当てて頂戴」
 保夫は、気も乗らなそうに煙草の烟《けむり》を吹いた。
「何の稽古が始るのかい。――吉村について感じたって……漠然としすぎて問題になりゃあしないよ」
 さよは、良人に興味を持たせたく、一生懸命に云った。
「吉村さんと鈴木さんとは同じ実業家でしょう。実業家といっても二人は実業につく動機がまるで異うと思ったの、そのこと――」
「厄介なことになったな」
 保夫は間に合わせな答をした。
「第一、男の見た男と、女の見た男とは大分違うよ」
「いやな方!」
 さよは、酸いような笑いを笑った。
「違うからこそ当てて頂戴と申上るのよ。あの二人は性格が随分異っているでしょう、その違いを私がどう感じたかということなのよ」
「さあ――大体何だろう、鈴木は神経質で、考え出すと眠れないという方だ
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