もんだりする事が出来るんだ。女は若し自分が片思いにしても思って居る男が外の女と好きそうな様子をして、たった一度位にらみ合いをしたったって、必[#「必」に「(ママ)」の注記]してそんな事に安心させられるほどのんきな気持をもって居るものじゃあありゃしない。よけいにいろんなこまっかい観察をするんだけれ共」
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思うはずじゃあなかったんだけれ共いつの間にか思って居た。
源さんは何だかやたらにうれしかった、すっかり安心したと云うのではなくっても心が軽くなった様に大きい声で話しがして見たい様な気持で居た。
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「四国から九州を御へん路して歩きとうござんすねえ」
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電車がすいて居たんで千世子ははばからない声で云った。
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「随分思いきった……つれてってあげましょうか、私じゃあいや?」
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Hさんは斯んな事を源さんとぶつかりっこしながら云った。
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「いやじゃあありませんけど……この上なしというほどじゃあありませんわ、貴方今までそんな事思った事ない?」
「思わない事もありゃあしませんサ、でもたった一人ぽつねんと行くのもいかがなもんですからネ」
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その時Hの瞳が小供の様に澄んでかがやいて居た、人なつっこい様な輝きに千世子の心の一片方はまぶしそうにパチパチとまばたきをした。
そしてHに向う自分の心の眼がくもって居る様な、又何かをおっかぶされて居るんじゃああるまいかと思われた。
田端に下りるとすぐ千世子は、「何だかうすら寒いようですわネエ」と云ってショールを一つ余計に巻きつけた。Hと源さんとの間にはさまって両うでにつかまりながらくらい陰気くさい道を恐ろしい事に出合う前の様なおじた気持ですかし見ながらたどって行った。
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「こんな道でもいざとなりゃなんともないんでしょうねエ、キット」
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切りわりの道に声をひびかせて千世子は云った。
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「いざっていうっていうのは?」
「マア例えばおっかけられた時とかかけおちの時」
「オヤオヤ偉い事を云い出したもんだ、それじゃあ今もかけ落ちしてると思ってたらこわくはないでしょう?」
「三人のかけ落ちってどこにありますの、それで又自分の家へかけ落ちするなんて……とうていそんな気持になれるもんじゃあありませんわ」
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まじめくさったおどけた返事に三人は大きな響をたてて笑った。
かたまりになって大声にはなして行くんで客待ちの車夫なんかは千世子のかおをすかし見たっきり、
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「いかがでございます御易くまいります、ヘエ団子坂まで……」
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いやにピョロピョロする千世子の大きらいな様子を見せられないですんだ。
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「よっぱらってるとでも思ってるんだ、奴っ!」
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源さんはこんな事を云って石をけりつけた。
足音がするとすぐ、
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「寒かなかったかい案じてたんだよ」
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母親はいかにもしんみりした親しみのある声で云った。
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「有難う、今日は随分面白うござんしたワ、すこしつかれたけれ共――」
「そりゃあよかったネ、も一枚着物を持たせてやりゃあよかったのにってねえ、あとで云ってたんだよ」
「そう、――そんなじゃあありませんでしたワ、とっとっと歩いて来たんですもの。でも裾をうすくしたかもしれませんねえ、この着物そりゃあ歩きいいんですのネ」
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千世子は頬を赤くしながら母親のかおを見て云った。
御飯後三人は母親を中央に据えて今日のいろんな事を話してきかせた。話の中途にHは用のあるようなかおをして西洋間に行ってしまった。
西洋間の皮張りの長椅子によっかかって、目の下にくらいかげをつくってHはうたたねをして居た。
フカフカするカアペッツの上をしのび足して千世子はすぐわきの椅子に腰かけて、ほんとうにつかれたらしくHの目をつぶって居る様子を見た。
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「まつげがきれいだ事」
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こんな事を千世子は思って居た。
千世子は瓦斯を消してスタンドのうす赤い光線をHのかおをよける様にして置いた。すぐその下で本をよんで居たけれ共フット、
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「こんな事をして何だか私がHをまるで恋して居る様だ! そいでも何かまうもんか、他人のために善くしてあげる事だもの」
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そのまんまそうっと室を出て茶の間の二人の仲間に入ってしゃべった。
時々、
[#
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