歩きながら、
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「随分俗っぽいところですネエ」
「あの家並の茶屋に黄色い声でほざいてる女達がよけいに気に入らないじゃあありませんか」
「あの声につられるマットン・チョップ(間抜もの)もあるんですかネエ」
「案外なものですよ、十人十色世間は広いんですから」
「又時間をつぶして来ようとは思えないところですわネエ、そうじゃあない?」
「すきずきですよ、すきな人もないではありますまい、キット、君は?」
「サア、すきませんネ、こんなところ、二度と来るもんですか」
「いまいましそうですネどうしたの? 私知ってますわ!」
「そんな事を云って居るもんじゃあないんですよ、――」
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Hはこんな事を云って一寸いかつい目つきをしてわきにひっかけて居る千世子のうでを押した。
下をむいてクスクス笑いながら、
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「ハイハイ」
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と何もかにもをまるめてうのみにする様な返事をした。
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「ここの栗めしや竹の子めしって随分下らないもんですネエ、そりゃあおどろくほどですよ、不美味《まず》くって……」
「そう、いずれ何々めしなんてこんな家並にする様になっちゃあ素人が作ったのより不美味いものになっちまうんですよ、デモ若し御給仕に来た女が自分の気に入ったら我慢するかも知れませんワ」
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千世子は遊びぬいた男が云う様な事を云った。源さんはそっぽを向きHは千世子のえりっ首を見ながら笑って居た。
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「私もうこんなところに居ずとようござんすワ、妙華園に行きましょうネ、近いから、いや?」
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一番奥の茶屋の赤い毛布の上に腰を下すとすぐ我ままらしく云い出した。渋いお茶をのんで居たHは、
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「もういやになった? 行ってもいいけど、源さん君は?
いいでしょうつき合っても……」
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羊かんをたべて居るのにかずけて源さんは合点したっきりだった。
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「じゃそうしましょう、でも千世子さん歩ける?」
「歩けまいと思えば誰が云い出しなんかするもんですか、キット歩きます、どんな事になっても……」
「自分は歩くつもりだって足が云う事をきかなくなったら困るじゃありませんか」
「歩かして見てから云って良い事ってすワ、早すぎます、今っから」
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千世子はおせんべを掌の中でこまっかくかきながら云った。
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「オヤ、何故私は大きいまんまかじろうとしないんだろう、気取るつもりでこんな事をしたんだろうか……」
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クスリと歯ぐきの間で笑って向うに岡持を下げて居る男と懸命にしゃべって居る娘の黒い横がおを望[#「望」に「(ママ)」の注記]めた。二人の話して居る事もととのわない下手な馬鹿げた事の様になって千世子の頭の中に想像された。
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「姐さん」
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Hがわるさをする様なかおっつきをして呼んだ。
話に身を入れて居る娘はきこえないと見えてふり向こうともしない。
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「一寸来てちょうだい」
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千世子が持ち前のかんだかい声で云うと娘はあわてて下駄を横ばきにしてかけて来た。
Hはからになったきゅうすを出しながら、
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「大分もててたネ」
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と云って人の悪い笑い方をした。娘はパッと顔を赤くして、見っともないかおに落ちかかる毛をあげあげして茶がまの方に行った。
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「ぶきりょうなあの年頃の娘がかおを赤くするなんて妙ないやな感じを起させるもんですわねえ」
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千世子はさとった様に小声でHに囁いてはばせまの帯を貝の口にした割合に太った後姿を見た。
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「同性じゃあありませんか、味方をする筈のもんですよ、年だってそんなに違ってもしないのに……」
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Hは何でもないと云った様に云って濃い髪を撫でた。女で云えばヒステリー性の人の持って居る青白いしまったたるみのない手、それと同じ形の手が黒いかみの林の間を白鳩の様にとび廻るのを美しいと思って千世子は、片方の目ではHの美しい手を片方の目では気まずいかおをして居る源さんを見た。茶屋を出てからも妙にそそのかされた気持で、並木の歩くに気持の好い、何となく斯う、画にある様な綺麗な小石の光る道をふところでをしながら筈[#「筈」に「(ママ)」の注記]とゆらゆらあるいて楽しさと苦痛の時間を長くしようとして居た。
両肩を張って二人にぶつかりながら歩いた。甘ったれる様な意
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