歩きながら、
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「随分俗っぽいところですネエ」
「あの家並の茶屋に黄色い声でほざいてる女達がよけいに気に入らないじゃあありませんか」
「あの声につられるマットン・チョップ(間抜もの)もあるんですかネエ」
「案外なものですよ、十人十色世間は広いんですから」
「又時間をつぶして来ようとは思えないところですわネエ、そうじゃあない?」
「すきずきですよ、すきな人もないではありますまい、キット、君は?」
「サア、すきませんネ、こんなところ、二度と来るもんですか」
「いまいましそうですネどうしたの? 私知ってますわ!」
「そんな事を云って居るもんじゃあないんですよ、――」
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Hはこんな事を云って一寸いかつい目つきをしてわきにひっかけて居る千世子のうでを押した。
下をむいてクスクス笑いながら、
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「ハイハイ」
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と何もかにもをまるめてうのみにする様な返事をした。
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「ここの栗めしや竹の子めしって随分下らないもんですネエ、そりゃあおどろくほどですよ、不美味《まず》くって……」
「そう、いずれ何々めしなんてこんな家並にする様になっちゃあ素人が作ったのより不美味いものになっちまうんですよ、デモ若し御給仕に来た女が自分の気に入ったら我慢するかも知れませんワ」
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千世子は遊びぬいた男が云う様な事を云った。源さんはそっぽを向きHは千世子のえりっ首を見ながら笑って居た。
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「私もうこんなところに居ずとようござんすワ、妙華園に行きましょうネ、近いから、いや?」
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一番奥の茶屋の赤い毛布の上に腰を下すとすぐ我ままらしく云い出した。渋いお茶をのんで居たHは、
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「もういやになった? 行ってもいいけど、源さん君は?
いいでしょうつき合っても……」
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羊かんをたべて居るのにかずけて源さんは合点したっきりだった。
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「じゃそうしましょう、でも千世子さん歩ける?」
「歩けまいと思えば誰が云い出しなんかするもんですか、キット歩きます、どんな事になっても……」
「自分は歩くつもりだって足が云う事をきかなくなったら困るじゃありませんか」
「歩かして見てか
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