れた小鳥の様にだまったまんま二人は椅子によって居たが、
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「きりだけやってしまいますから……」
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Hは云って立ち上ると源さんは千世子を見つめて居た目をあわててHの手に注ぎながら、
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「どうぞ。私も何かしましょうから」
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とばつを合せたつもりで下手な返事をした。
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「千世ちゃん単純生活をかりて来ますよ、ネ? いいでしょう、そいからこないだのは本箱の中にしまって置いたから……」
「そう、そんならそうなさいあれの原書もあるワ、正面の棚の上から二番目のはじの方に……キット」
「僕はこの頃フレンチを独りでやってるんだけど……貴方もやって御覧な……そんなに骨も折れないから……楽しみに好い……」
「でも今のところは出来ない、毎日こんな風をして居るんだからこの次の日曜に目黒に行って気分がわるくならなけりゃあ少し位つめてもいいけれ共……」
「ほんとうにそうだっけ、でも見たとこでは何ともないもんだから……」
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こんなまとまりのない知れきった様な事を御丁寧に話し合って居るのがつまらなくってしようがなかった。椅子の後に頭をぶっつけながら、
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「何か面白い話はない? 一寸も張り合いがないじゃあないの、こんな事話し合って居たって……」
「そうさネ……」
「それはそうと今日一体何曜?」
「今日? どうして忘れたの? 木曜ですよ!」
「じゃこの次の日曜まではじきネ」
「そうらしゅうござんすネエ、あしたは金曜でその次は土曜で……」
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Hが向うを向いたまんま笑いながら云う。
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「貴方のは十八番ですわネエ、ろくでもない」
「口下手な方が尊いんですよ」
「でもはなしか[#「はなしか」に傍線]が女にはありませんわ」
「ほんとうにそう云えばそうだが……ちっと妙だナア……」
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あんまりおどけて居たんで笑をつまみ出された様に「ハッハッ、ハッハッ」と調子をつけて笑った。
衿を合わせながら入って来た母親は二人をつかまえて北海道の話をし始めた。いくどもいくどもお祈りの文句の様にくり返してきかされて居る千世子は自分の部屋に入ってK子のところに手紙を書き始めた。まとまりがつかないで始まり
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