Hさんに良い女《ヒト》を世話して御あげなさいよ、そいでなくっちゃあ」
「そう思ってこないだも云って見たんだけれ共いやだと云ってききゃあしないんだもの、思ってる人でもあるんだよきっと……」
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 千世子はそれをきいてしかめっつらをして首をふった。
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「ねえ、御前信夫さんねえ、あの人のところから又先みたいな手紙をよこしたんだよ。どうしたんだろうねえ、あんまりあとさきを考えない仕様だねえ……」
「そんな手紙を書く時にあとさきを考えるんなら始めっからそんな事も思わないんだろうけれ共――ほんとうに私はいやになっちゃう、尼寺へでも行っちまいましょうか」
「そうするといいよほんとうに……」
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 母親は笑ってとり合わなかった。
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「信夫さんなんかってあんな世間知らずなくせに――あんな手紙書く事ばかり知ってる――」
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 千世子は自分が行くたんびにふるえる様な目つきをしてつっかかった様に、
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「千世ちゃん」
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と呼んで見たり赤くなったりするのが思い出されて胸の悪いほどに思われた。
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「貴方が恋をするなんて生意気すぎますよ」
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と今度あったら云ってやろうかと思って人の悪い馬鹿にしきった笑い方をする事もあった。
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「思い切って散切りになって男のなりをしてしまおうかしら」
「アアアア早く年取っちまえばいいとも思うけれ共――」
「若い人でなければうけられない特別な恩沢をうけすぎて私はもうあきあきしてしまった、しずかなところに独りで考えたい事を考えて居たい」
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 千世子の頭の中には時々どっか山の中に逃げて行ってしまいたいほどに思われる事があった。そうして山の中のほったて小屋にしずかに本を読んだり書いたり、木の間を歩いたりする時のうれしさを想う事もあった。
 Hは時の来るのを待つ様に必[#「必」に「(ママ)」の注記]して千世子に先に一度云った様な事は云わないのが千世子には却って考えさせられる様に感じて居た。
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「Hさん、私達は段々はなれられない御友達になって行きますわねえ。
 でも御友達には違いない。
 私達はお互に不幸にならな
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