、千世ちゃん私はもうさらけ出して云います、どうぞねえ怒らずにきいて下さい。私はねえ貴方が大変すきなんです、そいで又私のすきがる事を皆貴方はもってらっしゃる、そう思ってるんですよ、私は一生はなれないで居られる様になりたいと……
 それを御願いしようたって貴方はいやがっていらっしゃる」
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 Hは赤い顔になって云った。
 だまってきいて居た千世子は又新しい涙が湧いて来る様になった。
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「何故貴方そう思っていらっしゃる、私をまだすっかり知らないからそう思えていらっしゃるんでしょう、貴方もっと私の悪いところも知らなくっちゃあいけませんワ。
 私はきっと御断りするにきまってます、でも私は貴方がすきですワ、私は貴方がすきだからそう云うんです」
「じゃあ私達はどうしても死ぬまで御友達で居なくっちゃあならないんですか、私は……」
「私は貴方の御友達としてならいい女かも知れないけれ共それ以上のものになる様には生れついて居ませんもの――その方が幸福です――」
「でも私達ははなれちゃう事は出来ませんねえ」
「ええそれはきっと出来ません、そうしたら私は悲しがるでしょう……」
「そんなら私は今のまんまに満足して居なくっちゃあいけないんですか」
「お互にその方がようござんすワ」
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 そう云った時Hも千世子も涙ぐんで居た。
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「どうしてこの人は私をこんなによくばかり見て居るんだろう。
 私とあんまり仲よしになれば自分が不幸になるって云う事も忘れて居るんだもの――信夫も源さんも――ああ、ああ、私はもういやになってしまう」
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 千世子はそう思って居る。
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「この千世ちゃんて人はどうしてこんななんだろう、若い女の様じゃあなく何か考えて居る様に――感情的な女でありながら――私はだまってこの人のもしかひょっとして心のかわって呉れるのを待って居るほかない」
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 Hは落ちそうになって来る涙をのみこんで考え沈んだ様な又ジーッと自分の心を押えつける様にして居る千世子の上目をして居る顔を見た。Hは頭がクラクラして来た。
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「千世子さん、あんたは――」
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 Hは机の上につっぷしてしまった。千世子は上を見て居た瞳を下
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