し位の気の重さはなおってしまいますよ。
私としゃべった位で気が軽くなる位ならそんなに大して重かったんでもなかったんでしょう。
[#ここで字下げ終わり]
はじけた様に千世子は笑った。
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「いいえね、随分重かったんです
[#ここで字下げ終わり]
〔以下、原稿用紙四枚分欠〕
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「貴方の手が私の琴を弾く時より奇麗に見えたからですよ、
羨しかったんです。
[#ここで字下げ終わり]
千世子は思いあがった様に笑った。
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「ああ私もう帰りましょう、
あんまりいつまでも居ると貴方にさわりましょうから。
[#ここで字下げ終わり]
笛を吹く様に肇は云った。
千世子は別に止めようともしなかった。
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「今度来る時には篤さんと一緒に来ます、
何だか、気がとがめる様ですよほんとうに。
「まだそんな事を気にしてるんですか。
誰とでもいらっしゃい、
いやでなかったら御会いします。
[#ここで字下げ終わり]
千世子はこんな事を云いながら黄色な焔のユラユラゆらめいて居るのを見て居た。
こんな陰気な中に居るのは千世子はあんまりよくなかった。
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「ねえこんな影ぼう子ばっかり大きくうつる黒い部屋の中に居ると変な気持がしますねえ、
私の髪の毛がゾロゾロとぬけて行きそうな――
「私の首をくくる繩を握った大っきなものがひそんで居る様な――
ねえ。
[#ここで字下げ終わり]
千世子は迫る様な低い声で云った。
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「ええ。
[#ここで字下げ終わり]
燭のゆらめきは二つの大きな入道の影に奇妙な踊りをおどらせて壁にうつして居た。
(五)[#「(五)」は縦中横]
ベルの音に女中は口小言を云いながら出て見ると又例の二人が立って居た。
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「いらっしゃるでしょう」
[#ここで字下げ終わり]
篤が笑いながらきいた。
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「はい、
お上り遊ばして。
[#ここで字下げ終わり]
肇を先に立てて千世子の書斎に行った。
開けられたままの本の頁があけっぱなした窓からの風にあおられて居るばっかりで千世子はもうさっきっからここに居ないらしい様子になって居た。
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「どこへいったんだろう?
「何、今に来るよ、
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