四尺位で長さが一間半位の『ふせかご』を作るようにたのんどいで。
三日位まででね。
「何だろうまあ。
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女中は大きな声で笑いながら、
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鳩の事でございますねえ。
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と今思いあたったらしく云った。
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「たった二匹ぼっちの鳩をお入れになるのに一間半なんて長さがいるんでございますか?
「だってお前せまかったら気の毒じゃあないか、
一間半だってこれっぽっちだよ。
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わざわざたって行って千世子は柱から柱までの間をさして見たりして、
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何だか楽しみなもんだねえ。
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なんかと云って笑った。
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おあきなさらなけりゃあいいが。
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そう云って居る女中の顔に、
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「また飼番は私だよ。
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と云う色がありありと見えて居た。
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私の用はそれだけなんだよ。
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千世子はがっかりした様に云ってクルリッと後を向いてしまった。
いつもになく千世子は自分の留守に罪もない鳩に女中がつけつけあたりゃあしまいかなんかと云う事がやたらに気になって居た。
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あとをくっついてどこまでも来るといいんだけど。
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こんな事も思って居た。
その日は床に入るまで千世子は鳩の事ばっかり思いつづけた。
(三)[#「(三)」は縦中横]
鳩の御夫婦が来てから千世子は女中が起しに来るとすぐ床をぬけ出て「ふせかご」の中や木の枝に面白そうにのんきらしい様子に遊んで居る気軽者を見て機嫌よくして居る日が幾日も幾日もつづいた。
そうすると女中は気をゆるめた様にきっちりたのんだ時間でない時に耳元で、
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貴方様
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と呼んだり、
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鳩はもうさっきから出て居りますんですよ。
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と云ったりする様になった。
いまいましそうな顔をして、
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お前ねえ鳩が来たからって時間は時間だよ。
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なんかと云う様な事もあった。
女中も面白半分に鳩には親
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