京さんを呼んで来てお呉れな。
どうでも来ていただかなければならないんですからってね。
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と口上を教えて女中を一番近所に住んで居る京子の所へ迎にやった。
十五分|許《ばかり》してから京子が書斎に入って来た時千世子は待ちくたびれた様にぼんやりした顔をしてつるした額の絵の女を見て居た。
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今日は大変御機嫌が悪いんだってねえ、
どうしたの。
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笑いながら京子は千世子の顔を見るとすぐ云った。
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御機嫌が悪い?
歌を唱わなけりゃあ御機嫌が悪いんだと一人ぎめして居るんだものいやになっちゃう。
それに又彼の女にはその位の観察が関の山なんだものねえ。
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女中が少しすかして行った戸をいまいましそうに見ながら千世子は云った。そしてだまったまんま京子の桃割のぷくーんとした髷を見て居た千世子は急に嬉しそうに高く笑いながら京子の肩をつかんで言った。
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「いいえね、
ほんとうを云えばほんのちょっぴり御機嫌が悪かったの。
でもね今はすっかりなおった、
貴方が来て呉れたから。」
「貴方はお天気屋だもの、
そいで又我ままなんだもの、
あの女だって思いがけない処に気をつかって居るんですよきっと。
昨日《きのう》の朝よった時に私の顔を見るなり、
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「まあ、貴方様、いい処へお出下さいました事、御起ししなければならないんでございますけど少し工合が悪いと、
『私は朝が一番お前のきらいな時なんだよ』
なんておっしゃいますんですから。
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って云ってたもの、可哀そうに――
「それもそうね、
さきおとといの朝六時にお起しって云って置いたんできっちり六時が鳴ると私の処へ来て肩をゆすりながら、
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貴方様、お置き遊ばせ。
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て云うのがさっきから目を覚して居る私にははっきりわかったけれ共、狸をして居たら、鏡の前に行ってしきりに何かして居たっけが音のしない様に私が起上って居たのを見てまああの様子ったら、ぶきりょうの女があわてた様子ったらありゃあしない。
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こんならちもない事を云いながら千世子は男の様に不遠慮に笑った。
笑うために大きく開く口から「
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