生活の諸条件の発達に起因しているという今日普通の観察が、より現実の姿であることを承認せざるを得まいと思う。バッハオーフェンの労作の価値及びその訳出の価値は、疑いもなく、彼以後の七十八年間の人類文明の貴重な進歩は、彼によって印された家族に関する研究の第一歩を、いかなる具体的・現実的研究にまで推し出して来ているかという、正確にしてよろこばしき知識に照りかえされて、初めて真価を発揮するものと思う。
 現代の婦人の翹望と努力とは、過去の或る時代に素朴に考えられていた平等化、男性化の方向とは全く反対に向っている。あらゆる女は、心から最も調和的に、最も人間らしい自然さで女らしく生きたいと希っている。花咲き溢るる女らしさの全幅をもって経済的にも精神的にも生き貫いて行くことを欲している。訳書の前がきの言葉にある通り「女子が活溌な生産的労働や仕事にたずさわって」所謂「貴女達《レディーズ》を包む弱々しい女性らしさとは全く別性質の」美しい自他ともに幸福な「独立の気風」で朗らかに生きることを望んでいる。しかも、現実においては、今日「女子の隷属の起り得ない」「原始女性は実にその活溌な労働性の故に独立的なのであり
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