先駆的な古典として
――バッハオーフェン『母権論』富野敬照氏訳――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)空白《ブランク》

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(例)[#地付き]〔一九三九年三月〕
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 昨今の複雑で又変動の激しい世相は、一方に真面目な歴史研究への関心を刺戟しているが、若い婦人たちの間にも、益々多岐多難な女性の日常生活についての自省とともに、人類の長い歴史の消長のなかで女はどのような社会的歩きかたをして来たものかという女性史についての探求心が旺になっているのは、現代日本の興味ある一つの現象であると思う。その方面に関心をもっている人々は、明らかに自分たちの今日から明日への現実的な生き方を念頭において研究をも試みているのであり、日本の女性史の一瞬にパッと閃いて、やがてより濃い闇に埋められた「青鞜時代」のロマンティックな女性史への興味とは、おのずから本質がちがって来ている。
 今度古典的なバッハオーフェンの『母権論』の序文とエーリッヒ・フロンムという人のその批判とが合わせて翻訳されたことは、女性の歴史・家族の歴史・
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