兵の募集に応じようとしている市民の群が描写されている。これらの顔色のわるい人々、折から雨に外套もなくぬれながらなおぎっしり階段をうずめている群集を、ゴンクールは傍観的に描いている。「彼等は国家の危急に赴こうとしている」、と。ゴンクール自身は、政治として、この包囲を見ており、それを失敗として見ている。だが、民衆は、祖国の防衛として肉体をもってそれを感じ、そこに身を挺している。彼等灰色の人々に光栄あれ。
 フランスの知識人は「政治」と「政変」とに飽きて、「政治」について妙に観念化された。
 それがそこから離別することが人間的誠実とは思われる習慣となり、やがて悪癖となった。
 バルザックが、たとえ混乱を被いがたいにせよ、政治をも人間生活の現実として見る力のあったことは、彼が偉大な作家であったことをはずかしめない。
 バルザックは嘘偽も人世のリアリティーの一つであることを正視する勇気をもっていた。
 ゴンクールが自然主義作家であったが、大なるリアリスト作家でなかった所以。
 そして、フランスの知識人は、彼等の人生に正当なおき場所で政治をうけとり直すために全く大きい自己の犠牲と努力を要したのであ
前へ 次へ
全4ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング