つげ》をとおして、蝋燭のしんのまわりと聖像の面から短い後光が細かく一杯八方へさした。一つずつナースチャのまたたきがゆっくり重くなった。それにつれて後光は、蝋燭のまわりと聖像の面の上から次第に長く、明るく、顔の上にさして来るような気がする。ナースチャは溜息をついた。彼女の手足から感覚がぬけ、いつか閉じた瞼をとおし頭のうちまで光で一杯になった。
いびきで、ナースチャは愕然と目を開いた。彼女は自分の周囲を見まわした。かっちりと電燈が台所じゅうを照らしている。蝋燭は三分ほどともりのこっている。ナースチャは蝋燭を吹き消した。煙がゆれて、強い匂いが漂った。さっきとはまたちがう淋しい心持がナースチャに起った。ナースチャは伸びをし、肩をかいた。
ベルが鳴って、オルロフが帰って来た。彼は廊下で外套をぬぎながら、水のような眼でじっとナースチャを見つめ、
「いい娘さんだね、お前は」
と云った。ナースチャは、自分の顔になにかがついているんだと思って、あわてて手のひらで口のまわりをこすった。オルロフは、やっぱり水のような眼でナースチャを見まもり、命令した。
「どうかわたしに熱い茶を一杯持って来てくれないかね
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