手だと云って、ひどくほめた。ナースチャもほめられれば嬉しかった。ナースチャが来たては中国人の洗濯屋に出していたこの大敷布までいつか彼女が洗うようなことになった。洗濯屋に負けず綺麗だと云われるために、若いナースチャは過分に労力を費すのであった。
 十五分もたったころ、アンナ・リヴォーヴナの声が入口でした。
「さあさあ、どうぞこちらへ」
 ナースチャは台所の戸からのぞいた。アンナ・リヴォーヴナのうしろから、バンドつきの外套を着て書類入《ポルトフェリ》を抱えた山羊髯の小男が、すべるような足どりで入って来た。男はナースチャを見つけると、ちょっと鳥打帽子のひさし[#「ひさし」に傍点]に指をかけ、いやに丁寧に、
「こんにちは」
と云った。さっきの男だろうか。ナースチャがまごついていると、その山羊髯の男は唇だけで薄く笑いながら、
「アンナ・リヴォーヴナ、あの娘さんがさっきわたしを入れませんでしたよ」
と云った。
「まあ、どうしたのさお前、御挨拶をおし。田舎のお嬢さん[#「お嬢さん」に傍点]ですが、それはよく働きますの」
 アンナ・リヴォーヴナは愛嬌よくナースチャに近よって肩をたたいた。
「お互に仲よ 
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