ら大きさの順で机の端につみ重ねた。したがって、新聞が基礎構造で、「週間《ディー・ヴォッヘ》」「アガニョーク」「エルマー・ガントリー」という英語の筋ばかり厚い小説、日記、字引、五月八日にキエフから来た手紙、もう一つ小さい端のめくれた古手帳、その上に、ナースチャはきまって黄色い円い白粉箱をおき、黒坊人形は手にとって一つ接吻して、その白粉箱によせかけ、片づけ終るのであった。リザ・セミョンノヴナは帰って来て――夕方か夜更けかに――興業銀行で百八ルーブリの月給をもらう代り、怠ることの出来ない英語勉強のために、音読用エルマー・ガントリーをとろうとすると、それがまた彼女の金髪らしい性質で、いつの間にか机一杯に白粉箱や古手紙が散らばってしまうのであった。
 カウカーズの上靴を寝台の下にしまって、ナースチャがリザ・セミョンノヴナの室に鍵をかけ終ると、アンナ・リヴォーヴナは廊下で黒麦わらの帽子をかぶっている。
「さあ、籠を持って」
「ただいま《シチャース》」
「牛乳|壜《びん》を入れたかい?」
「ええ」
 戸に鍵をかけ、はしごを中途まで降りかけると、アンナ・リヴォーヴナは、
「ホラ、また忘れちゃった!」

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