があく。
「おお眠い。一たい何時? いま」
ナースチャは丁寧に腰をかがめてテーブルへ盆をおきつつ答える。
「八時十分です」
リザ・セミョンノヴナは裸足のまま寝台の前の小さい古い絨毯布の上に立っていた。あくびをし、柔かい金髪のおかっぱを両手でもしゃくしゃにこねまわし、もう一つあくびをしつつナースチャの肩へよっかかった。
「ナースチャ、鬼よ、お前! たったいっぺんでいいからうんざりするほど寝かしといてくれればいいのに!」
ナースチャ自身は黒い髪をたっぷり持って首の上に重く丸めていた。彼女には、この金髪の、足の裏まで柔いみたいなリザ・セミョンノヴナが好もしかった。リザ・セミョンノヴナはナースチャが来て半月後、アンナ・リヴォーヴナが出した貸間広告で来た銀行員である。
リザ・セミョンノヴナは、
脚をぶらぶらふりながら、
わたしは樽にかけている。
コンムニストだということは
云ったげようか
とても、陽気だ。
流行歌をうたい出し、ナースチャの顔のなかになんともしれぬながしめ[#「ながしめ」に傍点]を与え、麻の手拭を肩にかけて洗面所へ出かける。ナースチャもついて室を出て、
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