で同じ道を辿るので、一つ此処で、ぐっと方向を換えよう。バクーへ行こう。そこで、やや性急に自分たちのバクー行となったのである。

          二

 バクーへ着いて見て、自分たちは些かこれはしまったと思った。普通の暦でその日は金曜日に当ったからすぐ「アズ石油《ニェフチ》」へ行って油田を見せて貰えるつもりでいたところが、生憎その日はペルシアの日曜日――何かの宗教的祝日で、大通りの商店、事務所、すっかり表戸をおろしているのであった。
 仕方がないから、自分たちは目抜の通りへ出て地図を買い、通行人に交って街をぶらつきはじめた。すれ違う連中の八分通りはトルコ帽をかぶったペルシア人、韃靼《だったん》人である。耳の長い驢馬がふりわけに籠をつけて、小さい蹄に石ころ道を踏んで行く。バクーの市街の古い部分は五、六世紀頃から存在しているのである。
 大通りを行きつめたら、自然とカスピ海に向う、立派な遊歩道《プロムナード》へ出た。ペルシア行汽船の埠頭などがあり、暑いところのためか、あっちにもこっちにも派手な水色、桃色に塗ったビール・スタンド、泉鉱飲料店を出している。海面に張り出して、からりとした人民保
前へ 次へ
全18ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング