くない夏で、樹木の一本もない敷地の赭土の反射は炎暑でもえるようである。井上も中学生も辰太郎も、余り暑気の激しいときは、仕事をやめて沢よりの藪かげへ寝ころんで休んだり、雨天体操場のような天井の高い仕上場の土の上へ菰《こも》を敷いて横になったりした。
辰太郎は何となし井上や中学生がすきになっているのであった。一粒種の後とりだから猛之介はこの孫を甘やかしている。婆さんや娘より、一段上のものという感じで見ていたが、辰太郎としては、一種の孤独の思いがいつも胸にあるのであった。じいちゃんと自分との間、おばあさんと自分との間、そして母さんと自分との間、どっちを向いても、何となくもの足りない淋しいものがある。井上は中学生も辰太郎も同じ仲間のようにして、特に辰太郎には、竪穴に関連していろんな興味ある産業の進歩の歴史の話をきかしてくれた。辰太郎は、この丘の上へ続々立ちはじめた極めて近代的な工場と、その土の中にある古代の生活の遺跡とを、おどろきの目で見較べながら、そういう話をきいた。
夕方、辰太郎がかえると、その刻限には大抵夕顔の棚の下の床几にいる猛之介が、ふむ、きょうは何が出た、ときくのであった。竪穴
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